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水戸家庭裁判所麻生支部 昭和51年(家)16号 審判 1976年5月19日

国籍 韓国

住所 茨城県鹿島郡

申立人 朴満順(仮名)

事件本人 金篤一(仮名) 外二名

主文

事件本人らの後見人として申立人を選任する。

理由

申立人は、主文同旨の審判を求めた。

調査の結果によれば、以下の事実関係が認められる。

申立人は、昭和一五年九月二六日現東京都調布市で生れ、昭和三八年一一月一五日同市役所に金元国(韓国)との婚姻届を提出して以後同市内で同棲し、その間に主文掲記の事件本人である長男篤一、長女智恵美二男篤二をもうけたが、昭和四九年四月九日同市役所に協議離婚届を提出した。そして今日肩書住所地の志賀潔(本籍、茨城県鹿島郡○○町○○○番地)と婚姻し、同人とともにその間に出生した一子及び前記三児と同居して、これらを養育監護している。金元国は、昭和四五年秋頃申立人ら妻子を残して失踪し、同四九年三月遇然申立人と出会つて協議離婚するに至つたがその後は全く行方不明のままとなり、これが判明する見込はない。

なお、長男は中学一年、長女は小学校四年、二男は三年にそれぞれ在学中の未成年者であつて、申立人と事件本人らはいずれも帰化申請の準備中であり、本件申請もその手続をなすためであることが認められる。

叙上認定したところによれば、事件本人はいずれも韓国人であるからその親権者は法例第二〇条により父の本国法である韓国民法によつて定めることとなり、同民法第九〇九条によれば、その家にある父すなわち前記金元国が親権者となるわけであるが、同人は現在行方不明で現実に親権を行使することができない事情にあるので、法例第二三条第一項及び韓国民法第九二八条により、事件本人らについては、いずれも後見開始の原因があるものといわざるを得ない。

ところで、本件の場合親権者である金元国は現実に親権を行使できないとはいうものの、それは単に所在不明のためというにとどまり、今日これが死亡していると認むべき事情は窺うに足りない。ところで法定後見人に関する韓国民法第九三二条の規定は、その文言と形式上親権者が死亡した場合を定めたものとの適用はないものと解するのを相当とする。なお法例第三条、韓国民法第四条によると、満二〇年をもつて成人としているので事件本人がいずれも未成年者であることは明らかである。

そうすると、事件本人は、いずれも日本に居住し、かつその本国法によれば後見開始の原因がありながら、日本において後見の事務を行う者がない場合に当るから、法例第二三条第二項により我が国の法律によつてその福祉のため後見人をおく必要があるというべく、そして前叙の事情に徴するときは申立人を事件本人らの後見人に選任するのが相当であると考えられる。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 中橋正夫)

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